奇蹄目の過去・現在・未来
- omunakamozubajutsu
- 4月23日
- 読了時間: 7分
こんにちは、3回生の加藤です。
この記事ではこれまで私や他の部員が書いてきた馬術や中百舌鳥Cの馬の紹介ではなく、奇蹄目というウマを含む哺乳類のグループについて書こうかと思います。
馬術部に属するいっぱしの哺乳類好きとしてこういう記事を書いてみたかったんです。ネタが無くなったわけではないです。
書き方も論文やレポートの真似をしてできるだけきっちり書いてみようと思います。
奇蹄目とは
奇蹄目とは哺乳類の1グループでウマとサイ、バクから構成されています。種数は全部で21種ほどしかいなく、同じ草食哺乳類である鯨偶蹄目(ウシやシカ、ブタ、クジラ等。以下、「偶蹄目」と呼ぶ。)の約550種(福岡教育大学、年不詳)に比べると種数は極めて少ないです。
いったいどうして奇蹄目はこんなに種数が少ないのでしょうか。それには進化の歴史と体の作りが関わっています。
奇蹄目の過去
そもそも哺乳類は恐竜の時代である中世代に誕生しました。中世代にも哺乳類はじわじわと数を増やし複雑に分化していましたが、進化が加速し現在に繋がる種が分化し始めたのは新生代(恐竜の絶滅した後の時代)になってからです(西岡佑一郎ほか、2020)。
奇蹄目が誕生したのは新生代がはじまってからしばらく経った時(新生代始新世)のインド付近であると考えられています(西岡佑一郎ほか、2020)。「第三紀初期には有蹄類の中で最も優勢なグループであった。」(大場秀章、2005)とあるように、誕生してからしばらくの間、奇蹄目は大繁栄しました。そのころは偶蹄目の種数が少なく、他の草食哺乳類もあまりいなかったからです。世界は奇蹄目の天下でした。
その天下のもと、奇蹄目は様々に分化し、多様な種が登場しました。水辺を好んだサイのような見た目のブロントテリウムや馬面のゴリラとでもいう様な外見のカリコテリウムなどの独特の外見をしたものや、肩高5m近い史上最大級の陸上哺乳類であるパラケラテリウムなどです。
しかし、そのほとんどは現在に繋がりませんでした。
新生代の中頃(中新世中期)に気候が寒冷化し、草原が拡大しました。草原を代表する植物であるイネ科植物はセルロース等の不溶性食物繊維を多く含むため消化しづらい食料です。多くの草食哺乳類はイネ科植物を食べる必要に迫られました。
複数の胃を持ち反芻を行う偶蹄目は胃が一つで盲腸や結腸で消化を行う奇蹄目よりイネ科植物を消化吸収できる割合が高いと考えられています(早川雅晴、2021)。
そのため、食料摂取で不利になった奇蹄目は衰退し、かわって偶蹄目が栄えるようになりました。
ただ、消化率の低さを大量に食物を摂取することでカバーしたウマ科は奇蹄目の中でも例外的に繁栄していきました(大泰司紀之、1970)。
ここまでが奇蹄目の過去です。要約すると、新生代初期に誕生した奇蹄目は最初は大いに栄えましたが、草原の広がりにより偶蹄目に取って代わられてしまい、衰退していったということです。
奇蹄目の現在
これまで波瀾万丈の歴史を辿ってきた奇蹄目ですが、人類の登場によりいっそう数奇な運命を辿ることになりました。
人間活動による大幅な個体数の減少と増加です。
狩猟採集時代において、人間は食料のために奇蹄目の動物を狩ってきました。加えて、文化が発達してからは装飾や漢方薬のためにも狩るようになり、また、環境を改変することにより生息地を狭めることもしました。人類の狩猟圧や環境改変による圧はとても強く、サイ科では全種、バク科では4種、ウマ科では7種が絶滅危惧種に指定されています(IUCN、2025)。
しかしウマだけは風向きが異なります。ウマは家畜化されることにより野生状態に比べてその個体数を大きく増やしました。現在、世界には家畜化されたウマが約6000万頭いると言われており(畜産zoo鑑、年不詳)、これは過去のどの時代よりも個体数が多いと考えられます。
ウマは農耕や食用、交通手段として人間の役に立つだけではなく、競馬や私たちが行う馬術という面から人々を楽しませてもいます。馬術部である私たちにとって、ウマはなくてはならない存在です。
このように、かつての繁栄とは内容が異なりますが、個体数の面から見るとウマは第2にして最大の繁栄期を迎えていると言えるでしょう。
奇蹄目の未来
これまで、奇蹄目がたどった数奇な運命を見てきました。奇蹄目は初期に世界中で大繁栄した後、偶蹄目に押され大きく衰退し、人間活動によってさらに衰退しました。一方、家畜化という新たな道を進んだウマは再び大繁栄することができました。
ではこれからはどうなるのでしょうか。
ここからは私の予想が大きく入ってくるのですが、奇蹄目は近い将来には絶滅すると私は考えます。
理由は現在の野生の頭数にあります。サイは個体数が少なすぎる上に今でも密猟により個体数を減らしています。バクも目立った密猟こそないものの同様です。ウマも野生の頭数はかなり少ないです。シマウマは今でもある程度いるので他の奇蹄目の動物よりは長く続くと思いますが、それでも絶滅すると思います。
ちなみに家畜ウマは人類が絶滅するときに同時に滅ぶのではないかと考えています。
奇蹄目が絶滅すると考える理由はもう一つあります。それはどの種も体が大きいことです。体が大きいことは変化しない環境では他の動物との競争に有利に働きます。しかし、人類が積極的に環境を変えている現在において、食料を多く必要とする大きな体はそれだけで絶滅のリスクを高めていると私は考えています。
一方偶蹄目には小型のシカやイノシシなどが存在するので、急激な環境の変化に対処しやすく未来へ子孫を残せるのではないかと考えます。
実は私の意見は全く突飛なことをいっているのではありません。未来生物を予想した本として名高い「アフターマン」(ドゥーガル・ディクソン、1981)でも、奇蹄目は近い将来絶滅することが示されていました。
奇蹄目の動物が絶滅した後にはどのような動物が台頭するのでしょうか。
それは私が生き残るであろうと考える偶蹄目の動物かも知れませんし、それ以外の分類群の動物かも知れません。例えば、アフターマンでも示されていましたが、齧歯目や兎形目(ウサギの仲間)がいち早く大型化してかつての奇蹄目のニッチを占めるかも知れません。もしかしたら雑食性の食肉目が草食に転向して大型化する道があるのかも知れません。
未来は誰にも分からないのです。
これまでも様々な種類の動物群が絶滅してきました。奇蹄目だって南蹄目という分類の動物と競争して滅ぼし、南蹄目のニッチに入り込み繁栄したという過去があります。絶滅は決して悲観するだけの現象ではありません(昨今の人類が引き起こした絶滅は十分悲観する必要がありますが。)。絶滅もまた進化の一筋なのです。
まとめ
これまで奇蹄目の紹介とその過去・現在・未来を書いてきました。この記事の内容はいくつかの文献を参考にしたとはいえあくまでも素人である一部員の落書きです。この記事の内容を過度に信頼したり、馬術部の馬に対する公式見解であるとは見なしたりしないでいただきたく思います。
一応釈明しておきますが、私は馬が好きです。好きでもなければこんなに長い記事を書きません。この記事でウマの将来について悲観的に書いているのはウマが嫌いであるからなどではなく、それがおそらく事実だからです。感情と事実は区別して書かれるべきだと考えているのでこのように書いています。
馬は一般的にかっこいい動物・かわいい動物として有名です。ですがウマを含む奇蹄目についてはほとんど知られていません。このブログを読んでくださる皆さんがウマについてよく知っているように、奇蹄目についてもよく知ってもらいたいと思いこの記事を書きました。
この記事はどうだったでしょうか。奇蹄類のたどった歴史について過不足なく書けたでしょうか。論文やレポートのような様式を維持できたでしょうか。私としては、がんばったので満足しています。
ここまで読んでくださりありがとうございました。以下に参考文献を記載しておきます。
参考文献
福岡教育大学、哺乳類の分類、年不詳、閲覧日:4/19、
西岡佑一郎、楠橋直、高井正成、哺乳類の化石記録と白亜紀/古第三紀境界前後における初期進化、哺乳類科学 60(2):251-267,2020、閲覧日:4/18、
大場秀章、標本は語る 第2部 展示解説 動物界「哺乳類の多様性と標本から読み取ること」、2005年7月25日刊行、東京大学出版会、
早川雅晴、「消化」の学習教材としての奇蹄目と鯨偶蹄目の糞の基礎的研究、科学教育研究 Vol.45 No.2 (2021)、閲覧日:4/19、
偶蹄目の進化、大泰司紀之、1970年9月、閲覧日:4/19、
IUCN Red List of Threatened Species、閲覧日:4/19、https://www.iucnredlist.org/
畜産ZOO鑑、世界の馬産業、閲覧日:4/19、世界の馬産業
ドゥーガル・ディクソン、アフターマン、1981年刊行
写真:カリコテリウム(Wikipediaより)
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